車中泊紀行 〜白馬・糸魚川 千国街道をゆく〜
ふらっとひとり車中泊紀行
心にしみる風景にその土地ならではの食。
あぁ、これぞドライブ旅の醍醐味。
ホテルや旅館もいいけれど、今回はフリードプラス泊を満喫するのだ。
サイドミラーに映る白馬三山の絶景に、クルマを止めてしばらく見入る。
とんびだろうか?気持ちよさそうだな・・
大町から白馬へ北上する道すがら、木崎湖へ。
国道148号をそれ、広域道路へ。眺望がよく、道も広くて走りやすい。
長野五輪で整備されたのかな・・・。
よみがえる記憶の風景
初めて白馬を訪れたのは、確か大学2年の冬。当時はクルマがなく、友人と新宿から〝板〟をかついで「シュプール号」(いわゆるスキー列車)に乗り、白銀のゲレンデへ向かった。
夜、新宿駅から乗車して途中駅で何度か停車。
翌朝6時ごろ白馬駅に到着するダイヤだったような。
今に思えばえらくスローな行程だけど、そんなことはどうでもよくて、とにかく気分は高揚していた。
道中、白馬へ着くまで一睡もしなかったのではないか。
齢四十をすぎ、徹夜などできなくなった今では考えられないけれど、若かったんだな。
そして、そのときに見た白馬の風景が、今も心に鮮明に残っている。
タバコを吸いに待合室の外へ出て、空を見上げる。
ぴんと冷たい空気が張りつめた、静かで穏やかな朝だった。
群青から紫へ。空と月とのコントラストは徐々に弱まり、やがて日の出の時刻を迎えた。
と、ほどなく北アルプス・白馬三山の稜線が、うっすらとピンクに色づきはじめた。
そして、それは瞬く間に鮮やかなオレンジへと変わり、純白の峰々を燃えるように染めたのだ。
そんな自然が織りなす色彩の舞台から目が離せず、スキー場行きバスの出発を知らされるまで、寒さも忘れて、ただただ見入ってしまった。
事前に下調べしておいた信濃森上駅近くのビューポイントで。エアコンよりも、窓を開けたほうが気持ちいい。
それが仕事に就いてからも、クルマやバイクでたびたび彼の地を訪れるきっかけに。
でも、ここ最近は足が遠のき、鮮明だったはずの記憶も、どこかに置き忘れていた。
それを思い起こさせたのが、今回の車中泊旅。旅の相棒(いや、宿かな?)には〝車中泊仕様〟としても人気のフリードプラスを選んだ。
理由は、のんびり旅できそうな予感がしたから。
そして「行き先は」と、浮かんだのが白馬の風景だった。この時期は、頂の残雪と鮮やかな新緑、そしてそれを映す水鏡が美しいはず。
あらためて白馬村までのルートを調べてみると、これが結構遠い。
都心から長野道・安曇野ICまではおよそ240㎞、3時間。そこから一般道を1時間ほど走る行程。
〝ちょっとそこまで〟感覚じゃ行けないけれど、どうせ急がぬ自遊旅。そして、初めての本格的な車中泊旅。
あのころスキー列車に揺られていたときに似たドキドキ感が一瞬甦った。
11時に白馬へ着くよう、7時に東京を出発。その理由は〝そば〟。
信州といったらやっぱり外せない。5年ほど前に一度訪れた蕎麦屋に、また行ってみたくなったのだ。ナビの予想時間どおりに到着し一番乗り!
ご夫婦ふたりで営む店は、繁忙期には行列ができる繁盛店。
今回は平日に訪れたので、そばを味わいながらゆっくりお話ができた。
帰り際、車中泊旅をする旨を伝えると、「私もよく車中泊しますよ(笑)」とご主人。
愛車を見せていただいた。おふたりの笑顔に見送られ、店をあとに。
そばも美味かったし、なんだかいい旅になりそうだ。
利根川蕎麦店
つゆをかけていただく「香りそば」(1850円)と、そばがきよりも粉を細かくひいてなめらかに仕上げた「そばだんご」(400円)。
青大豆のきな粉ともに美味。
国道148号沿い、飯森駅近くにある古民家を改装したかやぶき屋根の蕎麦店。
座敷とテーブル席がある。
そばはもちろん手打ち。ピシっと“カド”が立ち、みずみずしくて味わいがある。
わさびではなく七味で食べるのがおすすめ。濃厚なそば湯もうれしい。つゆまで全部いただいた。
満足。
定休日:火曜、第2・第4水曜
営業時間:11:00〜16:00
くもりどきどき車中泊
「モクテキチノ テンキハ クモリ」
東京を発つ前にフリードプラスのカシコい通信ナビが教えてくれたとおり、白馬周辺はあいにくの天候。
八方尾根や白馬岳の山頂にはひときわ厚い雲がかかり、残雪は中腹のみのチラ見せ状態。青空にパリっと映える稜線を期待していただけに、ちょっと残念。
低気圧の影響で雲の流れが異様に早く、ときおりその切れ間から強い夏の日ざしが顔をのぞかせる。
雲の影が、田んぼから山肌へと早足で駆け上がっていた。
「昨日は雷まで鳴って。台風みたいな大荒れの天気でしたよ」
そういえば、利根川蕎麦店の奥様がそう言っていた。
雨は降っていないし、まだ恵まれているほうなんだろう。
ちなみに今日は白馬で車中泊する予定。チャンスはもう一日ある。
そんな天候にやきもきしながら「もしや」と淡い期待を抱き、白馬三山を一望できる撮影スポットに上がってみると、裾野に2本のラインが見えた。白馬ジャンプ競技場だ。
そう、白馬といえば、1998年の長野五輪冬期大会のスキー・ジャンプ競技が開催された記念の地。
白馬駅近くの小高いビュースポットから。晴天であれば、田んぼの水鏡に北アルプス(後立山連峰)が……映る。
左手、山の中腹に見えるのは、白馬ジャンプ競技場
20年ほど前に見た、燃えるような山肌。その記憶をたどるため白馬の駅へ。
もちろんハイシーズンは冬だ。そのため、町にはあのころ感じたほどのにぎわいはない。今は八方尾根スキー場周辺のトレッキングが盛んな時期で、カラフルなウエアを着た山ガールたちの姿もちらほら。
そのためだろうか、駅周辺の雰囲気が、当時よりもこじゃれて見える……いや、違う。
その理由は、とにかく英語表記が多いことにある。
なかでも印象深いのは、団体戦で金メダルを獲得した〝あの〟シーンなのでは?
そう、原田雅彦選手の「船木ぃ〜」。あれから19年経つのか。
なんでも、白馬は外国人観光客が多く、なかでも時差がほとんどないオーストラリア人に人気なのだとか。
これには「へぇ〜」とSカメラマン。
今回、車中泊の地を白馬にしたのは私の思い出探し……だけではなく、れっきとした理由があった。
スキー場が点在する地域は、夏の閑散期には駐車場の利用が少ない。さらに高所のため、都心に比べて気温も低く、車中泊をするのに適しているのだ。このことは車中泊愛好家たちには認知されているよう。
「ホントにクルマに泊まるの?」
助手席でにやにやしながら、またもSカメラマン。もちろん、そのために準備してきたんだから。
「ちょっと喫茶店でも行かない?」
確かに朝から散策していたので、ちょっと疲れていた。
ふらりと立ち寄ったコーヒー店。扉を開けると、焙煎したコーヒー豆の、なんともいい香り。
それだけで気持ちのハリが、ふっとほぐれた気がした。
珈琲 せんじゅ
定番の「グラッシーブレンド」(奥/510円)と苦みのきいた「グアテマラアンティグアラ・フォリー」(手前/600円)。
こちらは期間限定の「ふき味噌トースト」(500円)。信州の春の味とモッツアレラチーズの組み合わせが美味。
白馬駅近くの自家焙煎と薪釜(まきがま)パンのコーヒー店。
黒漆喰(しっくい)でぬられたフランス製の石釜で焼かれる自家製酵母のパンと、自家焙煎したコーヒーがいただける。
カウンター席の窓からは、天気がよければ白馬三山を望める(畳席もあり)。和モダンな店内でジャズを聴きながらブレイクなんていかが。
左からオーナーの伊藤光泰さんと奥様の恵美さん、そしてスタッフの波多野美保さん。山の情報をいろいろ教えてもらった。
定休日:火曜、水曜(臨時休業あり)
営業時間:9:00〜18:00
こんなに快適でいいの!?
陽も傾いてきたし、そろそろ寝床を確保しないと。
いくつかあげておいた候補のなかで、今回は、オリンピック道路(県道33号)沿いの広い駐車場に投宿(駐車)。
サクサク準備を済ませ、早めに床に就いた。「明日は晴れると……いいな」
いくら車中泊に適しているとはいえ、やっぱりクルマはクルマ。
それなりのスペースと寝心地を覚悟していた。でも、後席を倒して驚き。私の身長(175㎝)でも長さに十分余裕があり、床面はほぼフラットになる。これなら十分寝られるじゃん。
シュラフに加え、今回は、車中泊専用マットとまくら、そしてシェード(目隠し)も用意で、写真は完成の図。なんとも快適な寝床を作り出せた。
車内で横になれるクルマと適切な場所、そしてアイテムがあれば仮眠を超えた快適な空間を作り出せる。