執念で探し出したとっておきのボンネットバス「1968年式いすずBXD20」
ボンネットトラックを手に入れてバイクショップの積載車として活用していた村田一洋さん。
ついに念願のボンネットバスを入手したと聞き訪問させていただいた。
初志貫徹
滋賀で自動車整備工場を営む村田一洋さんは、ボンネットトラックオーナーとして本誌112号に登場いただいた。
そのトラックとは平成時代まで作り続けられたボンネットトラックのシーラカンスこといすゞP-HTS12G型。
物好きにもそれを積載車にカスタムしてしまったのだ。
そもそも同車と巡り遭ったのは「ボンネットバスが欲しくて、探していたから」と言う。ふと手にした『ふるさと』(丸谷洋一著)という写真集でボンバスに開眼。
紆余曲折あって、そのときはボンネットトラックにたどり着き、積載車に改造し、業務に活用していた。
だがやはりボンネットバスが欲しい。
しかしいったい、どこにあるのだろうか。
そこで写真集『ふるさと』をもう一度読み直して、掲載された車両の消息を調べてみた。すると遠くない場所に現存することを突き止めた。
それからは根気の勝負。1年間通い詰めて猛アタックするも色よい返事はもらえない。
ここで諦めては終わってしまう。そこでもう1度『ふるさと』を読み返し、九州地方の車両が現存していることを突き止めた。どうやら個人オーナーが長年倉庫で保管していたようだ。意を決しフェリーで来訪。すると話がトントン拍子に進み、譲ってもらえることになった。
旧車でも、乗用車ならどこかに売り物があるだろう。
だがバスやトラックは違う。人の縁、運がなければ入手は難しい。縁も運もダメなときはとことんダメだが、
今回のように話がトントン進み始めることもある。引き寄せるのは人の情熱なのだと改めて実感した。
白ナンバーの自家用登録
いすゞBXD20は長年倉庫保管だったので状態は極めて良好。ボディ外板の丸頭リベットもオリジナルどおりのままだ。
補修経歴があると、このリベットが頭に穴のあいたタイプになってしまう。とはいえ、やはり長年の疲労は隠せない。
まず燃料ポンプから漏れが見つかり、引き取り前に修理された。
専門業者でなければ難しい整備だったがそれだけでは終わらず、ラジエターのコア替え、ウォーターポンプのオーバーホールも行っている。
それだけではない。念のためと足まわりを分解すると、リヤのリーフスプリングが付け根からもげてしまっていた。
村田さんが見つけたスプリングの専門業者は、奇遇なことに当時の図面を持っており、そのままの姿に復元。これも縁のなせる技だろう。
オリジナルを尊重しつつ、改修もしている。乗車定員を減らして中型免許での運転を可能にしたのだ。
このバスはホイールベースが4mと短いBXD20で、乗車定員は38人。中型免許で運転できる29人以下にするためつり革をレールごと外して、補助席を部分的に取り払った。そのため自家用の中型自動車として登録することができたのだ。
ホワイトに赤いストライプが3列入る。
新車からの塗装も無事だった。ただし部分的に補修が必要。二輪工房を営むくらいバイクに親しんでいる。しかもこのBXD20はボディを川崎航空機が製作している。あのカワサキである。
それなら傷みの激しい部分をカワサキのライムグリーンに塗ろうということになり、兄・充さんとペイント。
見事に路上復帰させると今まで縁のなかったバス仲間の輪が広がり、さらに愛着が増す。また、このバスがホイールベースの短いBXD20というのもポイントだろう。標準尺のBXD30はわりと全国に残っている。
だが短尺のBXD20は営林署などの需要しかなかったので生産台数が少なく、現存数は片手にも満たない。
長年ボンネットバスに憧れ続けた、村田さんのマニア心をくすぐるのだ。
「短尺」の魅力
1968年式いすずBXD 20。履歴を辿ると営林署で新車導入されていた。
路線を走っていなかったため走行距離は14万㎞台で止まり、前オーナーが倉庫保管。ちなみに長尺のBXD 30は全長8305㎜、ホイールベース4300㎜だがBXD 20は全長7700㎜、ホイールベース4000㎜。
ダブルクラッチ必須の運転には慣れが必要。すれ違う人が皆笑顔になってくれるので「社会貢献しているかも」と村田さん。
シートが新車時そのままなら、脇の運行用具箱や電装系のスイッチなども当時のまま残っている。
エンジン始動時はシフトレ
バー前のデコンプレバーを上げる。
乗車定員を29人以下にするため立ち席用のつり革を撤去して補助席を減らした。
座席は新規車検時に保安基準と照らし合わせて陸運支局で再計測された。
DA 640型ディーゼルエンジンは直列6気筒6373 ccで最高出力130 ps/ 2600 rpm、最大トルク41 . 5 kgm/ 1400 rpm。ヒーターの配管などはホームセンター素材で村田さんが補修。
燃料漏れしていた燃料ポンプは専門業者でオーバーホール。
高圧のため素人が手を出すには荷が重い。古くても部品には困らないようだ。